長井龍雪が描くOP/EDの演出的魅力 その1

OPED職人として名を馳せられている長井龍雪氏。
(いや、ここは敬意を表しOPED職人として「も」、と言うべきですね)
今年に入ってから立て続けにOPEDの演出を担当されており、
お目にかかる機会も多いと思うのですが、
どの作品においても、いつも通りの「安定の長井節」が感じられる。


そんな「長井節」に感化されまして
本稿では、最近の長井OPEDの演出的魅力を
作品ごとにピックアップして見ていこうと思います。
最近といっても、まずは本当に今年の作品。
『凪あす』OP、『ストブラ』ED、『リトバスEX』EDの3つ。
残りのものは「その2」にまわします。


ということで、まず『凪あす』OPから。

凪のあすから』OP2(2014年)

絵コンテ・演出:長井龍雪
作画監督:竹下美紀


序奏で風景ショット3連発。



風景ショットはフィックスではなく、スローPANでじわじわと見せる。
じわじわと見せることで、街並みに情緒が生まれ、
新しい物語が始まることを予感させる。


PANは右、左、右と規則的。
しかし、ただPANをするだけでは殺風景で物足りない。
しっかりと背景内にオブジェクト(緑点線で囲った)を設置する。これが大切。
オブジェクトが横に流れていくことで、PANをより強く実感できるからである。
何気ない背景にもこういった趣向がしっかりとこなされている。


←、→、←(PANの向き)と来て

続く4カット目は降雪を追いつつ、しっかりと↓(下PAN)に落として
ここまでの横PANの流れを打ち切る。合わせて序奏も終了。



流れをいったん打ち切ってからの、タイトルイン。
音楽と映像の足並みをしっかりと合わせていく。


主要な登場人物全員を映すカット(まなかがいないですが…)。
並び方にも工夫がある。
「人物を重ねない」のは勿論、「高低差」をつけていたり、
地表と空のライン位置や、青いバックにポツンと赤い傘というのも決まっている。


そうそう。
長井さんだと、こういうとき、全員後ろ向きにさせたりもするのですが、
今回はそうしない。けどそれが良い。複雑に絡む人間模様が絵に表れている。
台詞がないOPにおいて、被写体の視線をどこに向けるかはとても重要。
視線の向きで物語を紡いでいく演出スタイルは長井演出の常套手段と言っていいかも。


長井龍雪演出と視線の向きに関する面白い記事。
『あの夏で待ってる』OP映像から見えてきたこと―他の長井監督作品と比較して - 新・怖いくらいに青い空


誰もオンカメ(カメラの方を向いていない)じゃないのはいつも通り。
長井さんのOPに出てくる人物被写体はなかなかこちらを向かないのです。だがそれが良い。
長井龍雪は背中で語る - OTACTURE




こういった振り向きも叙情的。物語を感じさせる。
下を向いたり、上を向いたり。台詞がなくても、そこには意味を感じさせる。
長井さんのOPEDではちょいちょい見かける芝居のひとつですね。




バックショットからの、奥へ走り去っていくからの、振り向き。
これは長井龍雪という技法です。歴史的には『あの花』OPなど(ry。
関連記事ということで。
【OP演出】手前から奥へ、奥から手前への移動 安藤真裕OPなど - OTACTURE





サビ前の3カット。
「誰が誰を想っているか」というのがカッティングの順序と符合するシーンですが、
一方で、演出的には「バストショット」→「ニーショット」→「ロングショット」と
被写体がカメラからどんどんと離れていくのがポイントでもあります。
サビ前で盛り上がる前にいったんカメラを離すことで
映像的にテンションを落としている感じが出ている。
ちなみに、この近景、中景、遠景のショットを
順繰りに繋いでいくと素人でもそれなりに映画っぽいのが出来るとか出来ないとか。



サビ直前。
先ほどのロングからぐっと寄ってアップショット。
音楽だけでなく、映像的にもぐっと加速をつける。



遠→近の加速の次は、「低」から「高」への加速。
ちさきが空を仰ぐ芝居をトリガーに、
続くひかりのカットではどんどん上へ上へとPANアップしていく。
ちさきが仰いだのは空だけど、その想いは当然ひかりにも向かっているわけで、
ちさきの目線の先にはひかりがいるというのを示すために
(赤矢印で示したように、)ひかりのポジションをやや右寄りにずらしている。
こうすることで、ちさきからの視線誘導がカットをまたいでしっかりひかりへと繋がる。
目線の向きも両者シンクロしていて、マッチカットが決まる。



そこから更に目線の高度を上げていく。
マッチカットによって、カットはスムーズに繋がり、カメラワークが繋がっていく。
そして天空へPOV(本当は海面に手を伸ばしているというトリック。面白い)。




こういった何気ない振り向きも長井龍雪的。
歴史的には『あの夏』OPなどで(ry。

ストライク・ザ・ブラッド』ED2(2014年)

絵コンテ・演出:長井龍雪
作画:佐野恵一、川村幸祐

横長のシネマスコープに、白黒のコントラストが利いた画作り。
とある科学の超電磁砲S』のED1と趣向の近さを感じる。
被写体が青っぽいのも、長井節。
この辺りは8mm好きのようなので、ホワイトバランスをいじって作り込んでいそう。
長井さんは撮影への拘りは相当あると思います。



はい背中!



はい振り向き!よっ!長井節!



小物を被写体に据えてラストカットというのも粋な演出。
長井さんらしい締め方です。

リトルバスターズ!EX』ED(2014年)

絵コンテ・演出:長井龍雪
作画監督飯塚晴子

長井さんは夕景における色合いの出し方が上手い。
撮影処理が特徴的。長井マニュアルとかあってもおかしくない。
ネガポジのクロス処理とかで色合いが強く出るようなのをイメージしているのかな。
この場合、オレンジと緑が強く出るように処理されている。





長井龍雪といったらアクセサリー(小物)。
ということで、小物3兄弟。
『EX』の主要人物に合わせて、それぞれに小物を用意している。
こういった小物は演出的に使い勝手が良さそうな印象。
ここでの撮影処理も先ほどと同様、色合いを強く出すという趣向で特徴的。



キャラクターに色をあてるという演出。
これぞまさにザ・長井節。


この演出に関しては、こちらの記事が詳しいです。
http://d.hatena.ne.jp/ike_tomo/20091011/1255246873



このカットの撮影も特徴的。
緑が全面にわたって強く出るように、恐らくクロスプロセスっぽいもので処理されている。
山田尚子さんがEDとかでされているあの処理ですね。
長井さんは撮影出身ではないのですが、
撮影に関しては間違いなく人一倍拘りがあるように思います。


例えば、あおきえいさんとの対談でこんな話があったり。

あおき (撮影)処理が薄ければ薄いほど(作画の)線は目立ちます。だから逆に作画を目立たせたいんだったら、画面の処理は薄くして、なるべく素の状態でやったほうが良い。長井さんも撮影にこだわられていると聞いたことがありますが。
長井 リテイクを粘るというだけです(笑)。粘るのが癖になっちゃったんですよ。それこそ本当に、さっきいった撮出し感覚で(アニメ制作のデジタル化によって撮出しが格段に容易になったという話)、1話数につき200以上リテイクを出したりすることもあるくらいで。


【引用元】
あおきえい×長井龍雪スペシャル対談」『オトナアニメVol.19』, 洋泉社, 2011年, 131頁

200以上リテイクというのがどの程度の凄さなのかはわからないが、
いずれにせよ、長井氏が撮影に対して相当の拘りがあるのは確かだろう。
アナログからデジタルへの過渡期に氏がアニメ業界に入ったというのも
デジタル撮影に対する理解を深める大きな契機になっているように思う。

結び

以上3作品を見て、長井OP/EDの特徴をまとめると
・視線の向き(振り向き、バックショットなども含む)
コントラストに重きを置いた撮影処理やカラーコーディネート
・キャラクターを象徴するようなアクセサリーの登場
の3つくらいに特徴を絞ることができると思う。


長年、OPEDの演出を手掛けられている長井氏だが、
この辺りの特徴は崩れない。
崩れないからこその良さであり、
それが氏にとってのゆるがない作家性を形作っている。


上記の特徴を考慮しつつ、
長井フィルムを再度見てみるのと、新しい発見があるかも?


ということで、「その2」に続きます。
長井龍雪が描くOP/EDの演出的魅力 その2 - OTACTURE