『境界の彼方』6話の演出を見る

脚本:花田十輝
絵コンテ・演出:小川太一、石原立也
作画監督:丸木宣明

『境界』6話、とても良いギャグ回でした。
シャワーシーンにコスプレにダンス。
そんなにたくさん、我々にとってはどれもご褒美ですしおすし、
詰め込もうと思えば、24分の間に色々と詰め込めるものだなあと……。
果実型妖夢とか、設定が都合良過ぎじゃないですか?
個人的には体液浴びて服が溶けたりすればなおよしだったのですが。
まあそういった展開はOVA等で期待するとして。
などと、戯言をぬかしつつ。


6話の演出について。

アバンはいきなり美月の正面・斜め・煽りで決めてくるのも格好良いのですが、
続くカットで、愛ちゃんと未来の背面を撮っています。
ぷりっとしたおしりが良いですね。じゃなくて。
ここでは「正面ショット」と「背面ショット」で被写体の役割を区別しています。
怒っている美月とそれをなだめる愛と未来というふうに。
加えて、愛と未来が視線を美月の方にやっているので、
全体像を映さずとも3人の位置関係がなんとなくわかる。という親切設計です。



続くカットでようやく全体像を見せる。
前カットでその位置関係が示唆されていたので、やっぱりこういう並びだったかと納得できる。



念を押すように、「正面」と「背面」で区別させていく。
こういった何気ないポージング・ポジショニングで区別していくことって大切なんだと思います。
(逆に、このシーンで3人とも正面ショットだったらどう見えたかなあとも思ったり。)



茶店のシーン。
ここは未来と彩華さんに注目してみると、
左のカットと右のカットで距離感が違うように見える。
これは場面の意図に応じて奥行きを圧縮しているんですね。



ここも。
美月と愛の距離感に注目してみると、意図的に圧縮度を変えています。
「愛も応援しますー!」とか言っておきながら、
美月の体臭がキツくて近づきたくないニュアンスが良く出ています。
縦の構図だとこのように距離感をいじりやすいわけですが、
一方で、横の構図だと嘘をつけず、距離感をいじるのは難しいです。
けど、横は嘘をつけないからこそ、その距離感に誠実さが見て取れる。
縦と横でそれぞれの良さがあるということです。



果実型妖夢に惨敗して、下校中の秋人と未来。
ここは演出的には色々見方がありそうですが、
私だったら「夕景と電柱・送電線のコラボレーション」。これです。
特にこのシーンは送電線の走らせ方が絶妙ですな。



ここも。
背面+煽りってだけでもお腹いっぱいになりそうですが、
そこに、しっかりと電柱・送電線を入れることで構図を完成させている。
こういうとき建造物は入れたくないけれど、電柱だけは別と言いますか、
雰囲気が出て良いんですよね。
こういうのを庵野イズムなどと(勝手に)呼んでいたりしますが。
付け加えると、このシーンは夕景に明暗のグラデーションをかけていることで、
夕暮れ感が良く出ていて、
配色を見ても、全体としてのっぺりしないものになっていると思います。



ここも、しっかり電柱を放り込んでいく。隙間が出来たら電柱を入れろの法則。
良いですね。電柱。いや、ここは未来の胸を見ろって話なんですが。
そういえば、この回は「斜めの構図」や「煽り」が多いかもしれないですね。
使えるところがあれば余すことなく使っているような気がします。
この辺り、ずっと小川さんなのかなあ。よくわかりませんが。



ここも煽り。
未来がやってきて、秋人と愛の会話に入ってくるというシーンなのですが。
茶店って色々とモノがごちゃごちゃしているので、
煽ることで、未来の背後に余計なモノが映り込まなくて済むみたいな、
そういうのがあるのかなと思います。未来にフォーカスさせたいってことですね。



ここは未来を左寄りの位置から真ん中に移動させている。
と、それだけなのですが、
話題が本題に移り、未来が「話し手」から「聞き手」に変わるというところなので、
未来を中央に移動させているのです。細かい話ですが。



それから、未来を真ん中に置くことで、
秋人と愛の間に境界をつくっているとか、対称性をつくるとか。
それから、ここはアバンと同様で、正面・背面で区別するというのもありますね。



ここも斜め煽り。
妖夢との3回目の戦闘シーンですが、ここは特に斜めが多かったです。
右のカットは屋上のフェンスを使って上手く視線誘導しています。
フェンスはこういうとき、かなり使えると思います。



ここも斜め煽り。
斜めにした方が美月が劣勢に見えます。



ここも斜めにした方が、体液の当たる角度が急になりますし、
美月が右側へ倒れやすく見えるということで、より食らっている感が出ていますので、
斜めにした方が良いという解釈。



部室のシーン。
「4」でイマジナリーライン越えしているのですが、
ここは次のカットの、

博臣が部室に入ってくるところをスムーズに映すためにそうしたと言いますか、
それまでは入口の扉を見せないような撮り方をしていたわけですね。
で、博臣が来たときに初めて入口を見せる。



最初はずっと領域1にカメラを置いていて、
博臣が来る直前にカメラを領域2に移す。境界線をまたぐわけです。



ここのシーンも同様で、色々と撮る位置を動かしていますが、
実はある境界線を想定していて、そこを跨がずに撮っています。



境界線を越えるのは、美月が屋上にやってくるとき。
入口を見せるときに、美月が出てくるシーンを印象的に見せるために
部室の例と同様で、あえてそれまでは入口を映さないでおくというやり方をとっています。
入口は誰かが入ってくる時に初めて映すのが
やっぱり一番インパクトが出ると思いますので。


そんな感じで6話でした。
結局どこが小川さんで石原さんかはよくわからなかったですが、
ダンスパートは石原さんなんじゃないかなあと予想。
何となく『けいおん!』6話のふわふわ時間ぽかったですし。脆弱な根拠ですが。
コマ送りして見る価値のあるフィルムだなと思って、
ダンスパートは結構な回数コマ送りしていたのですが、
部屋を暗くしてコマ送りしながら愛ちゃん可愛いとか言っている自分に
後になって猛烈に自己嫌悪しましたとさ。
そしてダンスパートは上手く記事にまとめられず。
他のダンス作画と比較してみても面白そうですし
ロトスコで比較しても面白そうなのですが…。