『ワルキューレロマンツェ』5話 京極尚彦演出 被写体の重ね方・ずらし方

脚本:ふでやすかずゆき
絵コンテ・演出:京極尚彦
作画監督:山中正博

『ワルロマ』5話ですが
ラブライブ』の京極さん回ということで
とても面白かったです。
EDも担当されていますが、
ジョストのない日常回にあえて京極さんを迎え入れたところに
意図を感じるような…。京極さんへの期待が見て取れます。
いろいろと見ていきたいと思うのですが、まず

こういった被写体を重ねない配置。
全員がちゃんと映るようにずらして配置するという。
普通だったら不自然なんですが。映画ではそれが自然だったりもして、
そこに人物配置への配慮が見て取れると言いますか。
全員見せたい、という心情があってのことだと思うんですけど、
それをサッと普通に見せるのが演出さんの腕の見せ所。
人物配置の「ずらし術」がこの回の演出的見どころの一つです。



で、美桜が後ろに振り返って次のカットへ。
ここで美桜とノエルを重ねる。前のカットと違って、今度は重ねるわけです。
ずらして、重ねる。
付け加えると、前カットだと、美桜とノエルは配置に前後差があるのですが
後カットでは、その差が無くなっている。無いことにしている。
二人の被写体を重ねたいから、嘘をつくわけですね。
カッティングもそうした方がスムーズです。



で、重ねたらずらす。
ずらしたいから最初に重ねているわけです。
ずらすことも大事ですが、重ねることも大事。
ここは美桜からノエルへのフォーカス送りの処理も細かいですね。



ここも一瞬ですけど、重ねてからずらすという芝居付けをしています。
こうパッと美桜の表情が現われるのが良いですね。
被写体を重ねるのは何となく抵抗がありますけど、
それをする勇気みたいな、そういうのが重要だったりする時があるのだと思います。たぶん。


閑話休題

こういった左右対称の構図が出てきたら、
次に上手下手(かみてしもて)が来る法則。



ここの上手下手(かみてしもて)はかなりわかりやすくて、教科書的です。
上手(かみて)からやってくる茜はお茶会への参加を自ら名乗り出ます。
上手(かみて)だから能動的なんですね。



一方で、下手(しもて)に立つリサとフィオナは
美桜たちからお茶会に誘われている。
受動的な被写体は下手(しもて)に置くわけです。
わかりやすいですね。
構図的にもこれでしっくりきます。逆だとたぶんしっくりこない。



閑話休題で、ここのリサの振り向き。
振り向く途中でカットを割るところが凝ってるなあと思いました。
カット割ってから振り向いてもいいようなところをそうしないんですよね。
カット跨いだ芝居ってカット間の繋がりが強まって良いなあと思います。


場面変わってお茶会。

円卓は演出的に使い勝手が良いイメージがあります。
どこから撮っても面白そうですし、レイアウトもカチッとしていないので、
弄ろうと思えばいくらでも弄れる、みたいな印象。



たとえば、ここの茜は位置的におかしいんですけど、
まあ円卓だしそういうこともあるかもなーと思ってしまう。それが円卓効果。
無理やりずらして美桜と重ねないように配慮しているわけですね。
ここは美桜と茜二人の反応を映した方がいいから二人を映す。
何が何でも二人映す。
重ねる勇気がある一方で、ここではずらす勇気が問われているのです。



リサの手前を横切る美桜。
ここでも、重ねて、ずらす。
美桜が通り過ぎると、リサの向く方向が変わっている。
ここはこの1カットで美桜の移動とリサの挙動、
その両方をフレームにおさめているところがめちゃくちゃ上手いと思います。
京極さんはついついカットを割っちゃいそうなところをこのように割らないで、
割らないことで繋がりをスムーズにさせているようなところがあるように思います。



こういうところも全員ちゃんと映す。重ねない。
そうすることで無駄なカット割りを省いているというところもあるんだと思います。
どうしても全員映ったカットを挟みたいってなった時にも
こういった「ずらし術」は大切ですよね。
左のカットなんて特に、リサの無理やりな映り込み方を見るに、
何が何でも全員映してやるぞという意地を感じます。


Bパート。

Bパートは上手下手(かみてしもて)に則った演出が多かった印象です。
特に面白かったのはこの場面。
ミレイユが美桜とノエルに押しのけられて、
無理やり上手(かみて)にずらされるという荒技。
こんなやり方もあるのかーと思いました。
ここでこうした布石を打つことで次のカットに繋がっていきます。



続くカットでは、ミレイユがジョストについて語り出すわけです。
彼女を上手(かみて)に置くことで自然とそういった雰囲気が出来上がる。
上手(かみて)に立つ人物はそのシーンの主役であり、
悠長に自分の想いを語る特権がある、そんな印象。



おまけ。5話は表情付けも面白かったです。
これがラブライブ顔というやつですか。
絵コンテではどんなふうに描かれているんでしょう。