アニメOP演出試論 ―映像が刻むビート― 中編

演出的アクセントが刻むオフビート

演出的アクセントとは、急加速や急減速、急停止といった急速な演出のことをここでは指すことにする。それらは静止的あるいは等速的な状況に対し、アクセントとなって機能する。そして、それを楽曲のアクセントであるオフビート、とくに4拍目に重ねることで、映像に強烈なビートが刻まれる。以下では、主要な演出的アクセントである「カメラワーク」、「フレームイン」、「アクション」の三つを取り上げる。その中で、それらを4拍目に合わせると、いったいどういった映像ができるか見ていきたいと思う。


・カメラワークによるアクセント

たとえば『selector spread WIXOSS』OPのこのシーン。カメラが等間隔で激しく動いているが、ここでやっているのがまさに「4拍目に演出的アクセントをぶつける」という手法である。

4拍目というリズムの重心に繰り返し繰り返しアクセント的なカメラワークを当てていく。すると、映像が強烈なビートを刻み出す。映像的(OP的)快感というのはこのようにして生まれる。*1


上の例は急加速の場合だが、急停止でも同様である。

ちょうど上記の直前にあたるシークエンスだが、ここではカメラワークの失速する箇所に4拍目を合わせている。事前にここでリズムをつくっておき、続くシークエンスで怒涛の5連続急加速となるわけである。このとき、OPの映像は間違いなく「最高にノっている」のである。


・フレームインによるアクセント

ヤマノススメ セカンドシーズン』OPのこの箇所では、ピンポイントで急速フレームインのアクセントを置く。

もちろん、その場所は4拍目である。アクセントとなるフレーズを決して外すことなく、演出に落とし込む。演出に落とし込まれなければ、当然映像のビートは刻まれない。



あるいは、ここでは急浮上のフレームインをオフビートに合わせている。

このように押さえるべきアクセントをしっかりと押さえつつ、それ以外を変則的に動かし、その双方でメリハリをつけているのが『ヤマノススメ セカンドシーズン』OPの特徴であるように思う。


・アクションによるアクセント
上記の例はいずれもカメラワークやフレームインによるアクセントであったが、一方でアクションによってアクセントをつくることもある。

棺姫のチャイカ AVENGING BATTLE』OPのこのシーンでは、トールとアカリが武具で攻撃する瞬間が4拍目と一致する。

アタックの瞬間を合わせるだけでなく、同時に画面の色も変えることで、そのアクセントはさらに誇張して表現される。*2


アクションといっても、それがバトルシーンであれば、状況はもっと込み入ったものになるだろう。いろんなところが動くからである。そこでアクセントを入れようとしても、『チャイカAB』OPのようにきれいには決まらないだろう。しかし、そうしてできた「弱いアクセント」は視聴者の無意識下でリズムを刻む。

selector spread WIXOSS』OPのサビの1シーンである。一見何のアクセントもないように見えるかもしれないが、ここでは「弱いアクセント」が4拍目に立て続けに配置されている。

爆発エフェクトなどは比較的わかりやすいだろうが、他はこうして図にしてみてもわかりにくいかもしれない。アクセントはたしかにある。しかし、ここではアクセントを目立たせるよりも、アクション全体の流れを大事にしている。アクセントはその中にこっそりと置く。だからわかりにくい。しかしそういった目立たないリズムはまるで楽器のベースのようだ。「知らないうちに」「無意識下に」刻まれるリズムというのは音楽がそうであるように、演出においても大事な隠し味なのだろう。


そんなわかりにくいアクセントだが、このシーンにおけるアクセント的アクションの挙動にはある規則性が存在する。それが他のアクションとの違いになり、アクセントとして(意識的にせよ無意識的にせよ)認識される。

その規則とはつまり、カメラに近づく(/離れる)ことである。そのようにしてつくられた動きは加速的(減速的)な動きとして誇張されて映る。なぜなら、近ければ近いほど、その動きは速く見えるようになるからだ。ゆえにアクセントとなりうる。それを踏まえると、カメラに対して平行的な動きは、逆に等速的に映るものと見なせるだろう*3


たとえば、『チャイカ』OPでトールやアカリが武具を振るとき、腕のストロークが円弧を描き、カメラに接近したことを思い出してほしい。『WIXOSS』OPのサビも、アクセントになる動きは必ずカメラに近づく(/離れる)要素を含んでいるのである。


・演出的アクセントが刻むオンビート
ところで、上記のような演出的アクセントをオフビートではなく、オンビートに合わせたら、どうなるのだろうか。そこに映像のアクセントは生まれるのか。

selector spread WIXOSS』OPのタイトル後のシーンでは、キャラクターらによるフレームインのアクセントがこのようにオンビートに乗る。こうなると、当然だがアクセントは弱まる。アクセントでしっかりと踏み込むことなく、ただ流れていく感じである。その一方で、オンビートゆえの「わかりやすさ」がある。つまり、出てくる登場人物一人ひとりがちゃんと伝わるわけである。


このオンビートがずれると、途端にわからなくなる。つまり、るう子、一衣、遊月、ちよりまではわかる(1・3・1・3)。が、その後のエルドラ*4、晶、伊緒奈はごちゃっと出てきて(4・1・2)、よくわからなくなるのである。こうなる要因の一端は規則的なオンビートからずれたことにある。


演出的アクセントがオンビートに乗ると、「流れる」。それは「繋がる」イメージとも重なる。が、ここでちょっと待ったとなる。前編の話では、オンビートは「切断」すると言っていなかったか。


◇◇◇


ここで今までの整理しよう。前編の話はカッティングが刻むオン/オフビートの話であった。では、中編はというと、演出的アクセントが刻むオン/オフビートの話である。つまり、見ている手法が違うのである。ゆえに同じオン/オフビートでも、その効果には違いがあるかもしれないわけだ。


そもそも、カッティングはその名の通り「切断」する演出だ。そんなカッティングを「接続」的に見せるには誤魔化すしかない。これが「4拍目に合わせる」という話に繋がる。


対する演出的アクセントには、カッティングのような切断効果はない。普通にしていれば繋がるのである。そこにおいて「切断/接続」といった峻別は適切ではないだろう。むしろ、「踏み出す/踏み込む」といったイメージに近い。つまり、オフビートは踏み込んで踏み込んでリズムを刻んでいくわけである。対するオンビートはその勢いを受けて「踏み出す」イメージだ。そこに重心はないが、その代わり、勢いにまかせて流されていくような感覚がある。


まとめると、次のようになる。

基本はこんな感じだと思う。もっと適切な表現はいくらでもあると思うが、重要なのは、オン/オフビートが相反する性質をもつということだ。


最後に確認ということで、二例見てみよう。まずはカッティングにおけるオン/オフの使い分けについて。

まず1拍目にカットを入れて、「わかりやすく」「切断」する。こうすることで、これまでのカメラの動き(動線)を止め、繭*5のアップショットを強調する。一瞬の登場でありながら、ラスボスっぽい存在感を放つのは1拍目でカットを割ったからだ。そして続くシーンでは、ふたせ文緒という新キャラのカットがオフビートで挿入される。これが「わかりにくく」て「接続的」なのである。「誰だこのキャラクターは?」と思っている間に、流れるように去っていく*6。本編でも描かれる彼女の謎っぽさはこういったオフビートによく馴染む。


続いてカット割りとアクセントを同時に使った場合。

最初の4拍目では、カット割りと急降下のアクセントが重なるので、「接続的」で「踏み込む」イメージとなる。「踏み込む」ことで、るう子の落下に勢いがつく。そしてもう一か所、1拍目にカット割りとウィクロス台が地面から突き出るアクセントが重なる。これは「切断」して「踏み出す」、そして非常にわかりやすい。ウィクロス台の存在が強調される。ここまで4拍目で割る場面が続くのだが、その流れをここでしっかりと打ち切る。そうしてサビに入るわけである。


ところで、るう子「落下」からウィクロス台の「突出」というカッティングについてだが、「落下」と「突出」という動きは、それぞれ「下へ*7」「上へ」という動きである。つまり方向が逆になっている。だから、「切断」されるのだと見ることもできるだろう。


ここまで、カットや演出的アクセントの話をしてきたが、OPにおいて「接続/切断」をつかさどる重要な要素がもう一つある。それこそが「上」「下」といった「方向性」やその「速度」である。これを後編で扱う。


≪後編に続く≫

*1:正確に述べると、2つ目のアクセント(ちよりからエルドラへのQPAN)は半拍早い「裏拍」に打たれている。

*2:正確に述べると、ここでの演出的アクセントは「アクション」と「色」、そして「カメラワーク」の合わせ技である。

*3:いかにその動きが加速するものであったとしても、だ。なお、カメラワークとフレームイン(スライド)に関しては、その限りではない。この二つは平行の動きであっても容易に急加速できる。対するアクションは運動曲線に支配されるため、こういった直線的な加速にはあまり向かないように思う。

*4:ちよりのルリグ。

*5:WIXOSS』の登場人物であり、キーパーソン。

*6:一瞬しか映らないからというのももちろんあるが、だとしてもオンビートで入れば、もっとわかりやすく映ったと思うのである。

*7:映像的には「奥へ」だが。