アニメOP演出試論 ―映像が刻むビート― 前編

アニメOPでは、演出が楽曲に対していかに上手く音ハメできるかという点がひとつの要になってくると思う。たとえば「リズムに合わせてカットを割れているか否か」でOPのテンポ感も変わってくるだろう。となると、問題は「どう上手く割るか」という点だ。

たとえば、上のような割り方が真っ先に思い浮かぶだろう。わかりやすく1拍目で割る。見た感じ、テンポ良くリズムを刻めそうではないか。

しかし、事はそう単純ではない。実際には上のように4拍目で割ることもある。一見すると、中途半端な割り方だ。「何のために?」と思われるかもしれない。しかし、この割り方にはちゃんとした意味がある。音楽に通じていれば、この時点で察しがついた方もいらっしゃるだろう。


上記二つのカット割りは本エントリの核となる。これらが一体どういったふうに違うのか。それぞれどういったリズムを刻み、どういったリズムを刻めないのか。それらを押さえていきながら、OP映像が刻む「リズム」や「アクセント」、「切断(seamy)/接続(seamless)」といったポイントに迫るのが本エントリの狙いである。

本エントリで取り上げるOP・ED
・『甘城ブリリアントパーク』OP(絵コンテ・演出:武本康弘
・『デンキ街の本屋さん』OP(絵コンテ・演出:佐藤まさふみ)
・『selector spread WIXOSS』OP(コンテ・演出:橘秀樹
・『ヤマノススメ セカンドシーズン』OP(コンテ・演出・原画:石浜真史
・『棺姫のチャイカ AVENGING BATTLE』OP(絵コンテ・演出:池添隆博
・『七つの大罪』OP(絵コンテ・演出:岡村天斎
・『まじっく快斗1412』OP(絵コンテ・演出:木村延景)
・『天体のメソッド』ED(絵コンテ・演出・作画監督・原画:江畑諒真


脚注で取り上げるOP
・『四月は君の嘘』OP(絵コンテ・演出:中村亮介)
・『PSYCHO-PASS 2』OP(絵コンテ・演出・作画監督石浜真史

各編のキーワード
前編…カッティング、切断/接続、オンビート/オフビート
中編…演出的アクセント、オフビート
後編…動線、速度、逆張り、傾斜

1拍目で割る=わかりやすい

まず1拍目のカット割りについて考える。1拍目で割る方法というのは、何よりも「わかりやすさ」が強調される。他の拍で中途半端に割るよりも、断然綺麗な印象を与える。

たとえば『甘城ブリリアントパーク』OPのAメロはこのように1拍目でカットを割る。非常に綺麗な割り方であり、画面の情報が整理されて伝わってくる感がある。「わかりやすい」というのは、そこでの情報がしっかりと伝わるということだ。仮に1拍目以外の箇所で変則的に割られたら、虚をつかれて混乱を生むかもしれない。そういった意味で、1拍目での規則的なカット割り*1は極めてわかりやすいのである。そのようにしてパークの日常風景をわかりやすく切り取り、提示していく。


この「わかりやすさ」というのは重要だ。というのも、アニメOPというのは決してわかりやすい割り方ばかりで割られないものだからだ。


これ以降、わかりにくいカット割りのオンパレードとなるが、そのような中で不意に差し込まれる「わかりやすいカット割り」はわかりやすいがゆえに目立つのである。「わかりやすい/わかりにくい」という双方を併用する中で、それらの相対的な差というのは浮き彫りになっていく。

4拍目で割る=カット間を繋ぐ

1拍目がわかりやすければ、4拍目はわかりにくい。たとえば『デンキ街の本屋さん』OPには、『甘ブリ』とは対照的に、4拍目でカットを割るシーンがある。

このように1拍目ではなく、前のめりに4拍目という中途半端な場所でカットされる。しかもモチーフごとやフレーズごとといった規則性がない。つまり、このカット割りには『甘ブリ』OPのAメロのようなわかりやすさはないわけだ。


が、その代わりに何があるかというと、「繋ぐ」のである。そこに1拍目との違いがある。たとえば、このシーンでは先生*2の一連の動作はきわめてシームレスに紡がれる。つまり、「カップ麺のふたを開けたら、リンゴが入っていて、驚いて笑った」という一連である。その描写に対して、『甘ブリ』のような完ぺきに整理されたわかりやすさは必ずしもマッチしないだろう。


4拍目のカット割りにはシームレスにカット間を繋ぐ力がある。その理由のひとつは、カットが小節をまたぐためである*3。それに対して、1拍目のカット割りはわかりやすいがゆえに、ある種の「断絶」をつくることにもなる。

たとえば、ここでは1拍目と4拍目のカット割りを使い分けているが、それぞれ「断絶(=切断)」と「繋ぐ(=接続)」に対応する。つまり、1拍目のカット割りは、直前のカメ子のシーンと「断絶」させるためであり、対する4拍目のカット割りは腐ガール*4がソムリエ*5おでん缶を渡す動作を「繋ぐ」ためと、このように峻別して見ることができるのである*6


ここまでを整理しよう。

要点
・1拍目のカット割り…わかりやすい。「切断(seamy)」の効果がある。
・4拍目のカット割り…わかりにくい。「接続(seamless)の効果がある。

つまり、それぞれに利点がある。ゆえに場合によって使い分けられることになる。これら上記を踏まえた上で、以降肝心の「リズム」や「アクセント」の話へと移っていくが、言うまでもなく、これらこそが「OPのノリ」を大きく決定づけるものである。

カット割りが刻むオンビート/オフビート

リズムには表と裏がある。つまりオンビート(1、3拍目を強調するビート)とオフビート(2、4拍目を強調するビート)のことだ。最近のポピュラー音楽はその大半がオフビートだと思う。今回取り上げるOPもすべてオフビートだ。しかし、その楽曲がどうであろうが、カット割りにはオンとオフ、そのどちらも有り得るわけである*7


前段の1拍目と4拍目を峻別する話はここに繋がってくる。オンビートは日本人なら馴染みの深い、「わかりやすい」リズムだ。対するオフビートは感覚的にやや馴染みにくいが、楽曲のビートと同調し「繋げる(リズムを断絶しない)」力がある。「1拍目/4拍目」の「わかりやすい/にくい」、「切断/接続」という感覚は、「オン/オフビート」がもつ性質と符合する。

たとえば、『デンキ街』OPのサビ前では、このようにカット割りがオンビートを刻む*8。この「1・3・1・3」というリズムは非常にわかりやすいもので、状況がよく伝わる。ここでの状況とはつまり、ひおたんとカントクが見つめ合うという状況のことだ。むろん、楽曲本来のオフビートからはズレており、切断的な印象もあるわけだが、しかし、切断的であるからこそ、1カット1カットがしっかりと強調されるとも言えるのである。


これがオフビートのカット割りになると、すべてがひっくり返る。

『甘ブリ』OPのイントロではカット割りがオフビートを刻む。このシーンを初めて見たときに「矢継ぎ早にカット割りしていく」ような印象を持たれなかっただろうか。だとしたら、その要因はオフビートでカットしたことにある。オフビート下では、「わかりやすさ」よりも「繋がる」感じが前面に出る。一つひとつのカットが強調されることなく、カットごとが連結し、流れるように前へ進んでいくような印象がある。


たとえば、「千斗の入浴シーン」→「ラティファの起床シーン」というように綺麗に分かれて認識されず、「千斗の入浴シーンキター!」と狂喜する暇もなく即座に「ラティファの起床シーン」に切り替わってしまうような感覚がある、と言えば伝わるだろうか。つまりそこには断絶面がない。ある意味でそれはわかりにくさの要因になるわけだが、一方でそのわかりにくさは楽曲のビートと同調して、映像にスピード感をもたらす*9

要点
カット割りが刻むリズムには以下の二つがある。
・オンビート…「切断」的にリズムを刻む。状況がわかりやすく伝わる。
・オフビート…楽曲に合わせて「接続」的にリズムを刻む。映像が楽曲の流れに乗る。*10


オンビートが表舞台に立つ役者であれば、オフビートは舞台裏の黒子のようなものだ。それらはリズム隊のごとく、普段はあまり表だって目立つことはないだろう。しかし、楽曲のリズムは常にオフビートが司っている。それもまた揺るぎない事実である。ゆえに、映像にノれるか否かのカギもまた、オフビートこそが握っているのだと言える。


何が言いたいのかというと、リズムを主張したい箇所があるのなら、オフビートを目立たせてやればいいということだ。問題はその方法になるわけだが、そこで登場するのが「演出的アクセント」である。普段は目立たないオフビートのアクセントは「演出的アクセント」を合わせることで、たちまち立役者へと変貌する。これこそが音ハメの真髄である。


≪中編につづく≫

*1:しかもモチーフ(2小節)ごとのカット割りである。実に規則的だ。

*2:デンキ街の本屋さん』の登場人物。漫画家志望のため、「先生」というあだ名で呼ばれている。実際に先生なわけではない。

*3:これに関しては、シンコペーションの手法をカット割りに導入したものと見ることもできるだろう。そもそもOPの「齧りかけの林檎」はサビがシンコペーションで進行する。ゆえに、4拍目でのカット割りというのがよく馴染むのである。その他の箇所もメロディに合わせてカットしていることが多い。いずれにせよ、4拍目で割ることで、カットが繋がることに変わりはないわけだが、OPごとの固有性に踏み込むのであれば、そのメロディも交えて考える必要があるだろう。

*4:デンキ街の本屋さん』の登場人物。ゾンビが好きなため、「腐ガール」と呼ばれる。腐女子ではない。

*5:デンキ街の本屋さん』の登場人物。博覧強記の漫画フリークであることに因み、「ソムリエ」と呼ばれている。実際にソムリエなわけではない。

*6:ここを「接続」的に描くことで、腐ガールとソムリエの関係の近しさを表現していると見ることもできるだろう。

*7:オフビートの曲に対して、オンビートの手拍子をしてしまうことがあるだろう。カット割りもそういった手拍子と同様だ。

*8:正確に述べると、最初の「1・3・1」はカット割りで、最後の「3」はひおたんが笑う仕草が拍に一致する。

*9:『甘ブリ』OPはイントロが基本的にオフビートである一方で、Aメロ・Bメロは基本オンビートでカットが割られていく。そして、サビ終盤ではオンビートとオフビートのごった煮となる。

*10:カットが刻むビートはこの二つになるが、音楽が刻むビートにはもうひとつある。それは「裏拍」だ。この「裏拍」を映像演出に上手く落とし込むことができれば、さらにリズム感のあるOPができることだろう。何を隠そう、それをやってのけたのが『PSYCHO-PASS 2』OPである。詳しくは後編の脚注で述べる。