アニメ演出家・小林寛の構図に酔いしれる

あけましておめでとうございます。
今年もゆるゆると更新していきたいと思います。


ということで、さっそくアニメ演出家の小林寛さんについて。
イムリーな話題ではないのですが、前々から気になっていた方でしたので。
勝手ながら、今年1本目は小林寛さんの演出、特に構図に酔いしれようということで。


小林寛 - 演出@wiki - アットウィキ
http://d.hatena.ne.jp/ike_tomo/20111225/1324824458
『ブラック★ロックシューター』第4話 絶望をどうやって映像的に表すのか - あしもとに水色宇宙
【小林寛・絵コンテ演出回】『ビビッドレッド・オペレーション』第4話『約束』レビュー - 私的UrawaReds&SubCul


ブログで言及されている方、
ツイッターでも話題に出されている方がいて。
それだけインパクトのある演出をされる方なのだと思います。


作歴はwikiを見ていただくとして、
では、どういった演出をされる方なのかというところを見ていきたいと思います。

1.暗い部屋に光



部屋を(わざと)暗くして、窓から射し込む光と人物を強調する演出。
格好良い!小林さんの構図はとにかくどれも格好良いのです。
こういった極端な光影でなくとも、画面を暗くしたり、
光と影の境界を意識させるような演出は良くされる印象です。




光と影のコントラストがキマってますね。
「暗闇」と暗闇を引き立てる「光」があることで、画面に独特の雰囲気が生まれます。
暗い部屋のモチーフは例えば出崎統さんなどもつかわれていたように思います。

2.横向き・端寄せ



横向き・端寄せの構図。
正面を向かせないのは、横向きの方が感情がより強く乗るから、ですね。




そして端に寄せるのは、画面に「ふくみ」を持たせるため。
上手(かみて)・下手(しもて)という「ふくみ」です。
真ん中に置いてしまうと、こういった味は出ない。




おねがいツインズ』11話
絵コンテ・演出:あおきえい
思い出したのが、『おねがいツインズ』のこのカット。
あおきえいさんの演出回でした。
上手(かみて)なのも、壁で区切るのもよく似ていますね。
シチュエーションは違ったりもするのですが。
こういう横顔・端寄せカットは印象に残る。酔いしれますな。
これをサッと見せるべきときにタイミングよく見せられる小林寛さんは凄いです。

3.奥に隅に人物を追いやる




奥行きのある構図の一番奥にキャラクターを置く。
追い詰められている心情と構図がよくマッチしています。
人の視線は手前から奥へ移っていく性質があるので、
その最終到達点に見せたい人物を配置するというのは合理的に思えます。



といっても、
実際には手前から奥へとじっくり見まわせるような暇はなかなかないですし。
実際はまず人物を見ますよね。パッと一瞬で目がいく。
問題はその後。
人物に注視した後で、視線が泳がないような構図になっているかどうか。
そこで、奥に隅に人物を配置することで視線を固定するという打開策です。
視線は何もなければ自然と奥へ隅へと行き着くものです。
背景が真っ白でも、奥に人物を配置することで視線が固定されるように思います。



GJ部』8話
絵コンテ・演出:畑博之
ただ、視線を固定することだけが全てではなくて。
それはシチュエーションによります。
GJ部』のこのカットは、視線が固定されづらい。
これはあえてそうしているんですね。水着ですから。視線を泳がせる。


たくさんの人を1カットで見せたいときや
綺麗な景色を隅々まで見せたいときなどは
視線を泳がせることを重視するのだと思います。
(つい先日も『ゼロ・グラビティ』で視線が泳ぐ体験をしてきました)

手前・奥の配置




小林さんの場合、手前と奥で距離をかなり引き離すことがありますね。
これはこれで、先ほどのものとはまた印象が変わります。
これらのカットの主役は手前にいるキャラクターたちです。
奥ではなくて、主役である手前に視線が固定される。
ただ、最初のうちは視線は手前と奥を移動していると思います。
画面の対角線上を行き来するように、視線が動く。
そして最終的にある箇所に固定される。


また、奥と手前とで異なるシチュエーションを描いているので、
画面に相対性が生まれて、ただの構図遊びではなく、
ストーリーとリンクしていくようになるのだと思います。
そのリンクのさせ方が小林寛さんは上手いのかもしれません。


また、こうすることで、1シークエンスが1カットにおさまって、
モンタージュが不必要にしつこくならないというのもあると思います。



手前・奥の応用編ということで、
いろんな演出の要素を詰め込んだ最強の構図。
キルラキル』5話はどこを見ても濃ゆかったですが、
特にこのカットなんてもう、あいた口がふさがらない……。
光源、光の射し方、鏡、奥行きと視線誘導。
配色的には青っぽい背景に、緑色のデッキブラシ、赤いトサカ。
小林寛さんといったらこのカットを思い出すようにしましょう。
いや、これで画面が崩壊せずに、ちゃんとおさまっているのが凄いです。


4.長い道



ずーっと続いていく長い道を撮るのも上手いなあと思いました。
行く人、来る人を超ロングで撮影する。
開放的なカット。
逃げることもできるし、立ち向かうこともできるんだよという暗示に使えたりも。



カードキャプターさくら』16話
絵コンテ・演出:神戸守
奥の方からやってくる車やバイクを撮るときは
道路はとりあえず上下にうねらせておいた方が見栄えがしていいですね。
というわけで『CCさくら』16話。名回です。神戸守さんの演出も良かったですね。



この道の撮り方も上手いです。
道が続いていって、奥の奥に見える示現エンジンまでしっかりと映す。
手前と奥の関係もしっかりとしている。
ヒロイン・一色あかねを奥側に配置していますが、
彼女こそがこのカットの主役。カメラの方を向いているから。
手前と奥の距離を広くとることで、
新聞配達の途中で忙しいから先にいくね、という状況がうまく説明されています。

5.柵と海


柵と海と二人というシチュエーションは雰囲気が出るので好きです。
そんな『ビビオペ』の4話。演出的には見どころが多かったように思います。
構図ももちろんですが、カッティングも良かった。再評価されるべき一本です。



STAR DRIVER 輝きのタクト』10話
絵コンテ:柳沢テツヤ 演出:佐藤育郎



おにいさまへ…』4話
絵コンテ:出崎統 演出:宮崎一哉
柵と海ということで、
柵がないと海に落ちてしまいそうですからね。
柵があることで海へ飛び込みにくくなる。
これが閉塞感を生んだり、超えるべきハードルを暗示していたりするのかなとか。
画面内の線を増やす役割もありそうですね。
特に二人が並んでいるときに水平線を一本引くと構図的によく決まります。
何にせよ、近くに海があるアニメは良いですなあ。

6.結び

小林寛さん、一番の特徴は影っぽいところかなぁ
『タイバニ』とか『BRS』とかを見ていると、と思うのですが、
確かに光影の演出は拘られているような気がします。


が、それと同じくらいに奥隅にキャラを配置する構図。
これもまた小林演出に見られる、面白いなあと思います。
視線が泳がない、一か所に落ち着かせるような構図の作り方と言いますか、
そういったところに配慮して構図を作られているのかなとも思いました。


さて、今年はどんな小林寛演出が見られるか。
今から楽しみでなりません。